ヴァルナ国際バレエコンクールの紹介

2016年 第27回 ヴァルナ国際コンクールの審査員に選出された今村先生に、コンクールに関するさまざまなことについてインタビューさせていただき、海外で活躍するダンサーやバレリーナを目指す子供達に向けてのメッセージをいただきました。

  • 日本人ダンサーが外国のダンサーと共に国内外で活動をするために技術面、精神面で必要な事があれば教えていただけますか。
  • 技術は日本で教わった後に、外でやっても問題はないでしょうね。
    ただ、精神的な面でコミュニケーションとか、語学力とか。海外で踊るにはやっぱり語学力が必要ですし、人とのコミュニケーションがとても大事になるのだと思いますよ。
  • イメージとして、日本人の見た目やスタイルで外国の方より見劣りしたりはしないでしょうか。
  • 最近はキレイな子が増えてきてますから。
    確かに日本人的な体型な方もいらっしゃいますが、ご先祖様から受け継いだ物なのでしょうがないかと思います。
    ですからやっぱり精神面が大事でしょうね。やって、続ける。という事がね。
  • 海外で活動する際、文化的なところ、例えばマイム等、日本人が苦手な所が多いのではないかと思いますが。
  • でもやっぱりそれは、住んでいれば自然に出て来ると思います。
    あちらのお家は天井が高いんですよ、なので自然に背筋が伸びます。
    返事も(顔のアクションをつけて)YESはYES、NOはNOで。日本では「えぇー」と曖昧ですけど、それは生活から来ていることだから。

    だから、バレエの勉強で留学する時、技術を勉強するよりも、そういう生活の中からバレエという物に触れるために若い子は行ったほうが良いと思う。
    本当に、外国に行けば上手になるなら皆行っちゃうじゃないですか。でも実際は行っても上手くならないんです。
    だけどそれは、経験にはなる。何年か経った後にね、すぐに身にはならないけども。
    10年くらい経って本当にその人が真摯にバレエを続けていれば、外国で生活した事によって、これがバレエに繋がるんだなという事がちゃんとわかると思う。
    私もそうやって、言われて行って、10年ぐらいしてから本当に気がついた事がいっぱいありますよ。
  • 海外へ行くときの心構えとして、10年後やその先の事を見据えて行った方が良いという事でしょうか。
  • でも、当人じゃわからないと思います、そんな事は。だけどそれをアドバイスしてくれる、ご両親とか周りの方達が「今行く事はすぐには身にならないとは思うけれども、きっと10年後きみの為になると思うよ」という事を言ってあげる人が近くにいるといいね。
    やっぱり、若い人は目の前の物しか見えないから。
    人生と同じで、ちょっと経つと、前と後ろとちゃんと見えるようになる。
    本当に10代の頃って、それこそ自分の今がずーっと続くような気になってるじゃないですか。
    だけど30歳くらいになると今があって、少し後ろが見えてきて。だんだん50歳60歳ぐらいになって大きな世界が見えたり。
    人間の生き方と同じだから、その膨らみが人間を、芸術家を育てていきます。
  • お話をお聞きしていると、特に国籍は関係ない、と。
  • ほんとバレエはインターナショナルなんですよ。だって外国の物をやっているんだからね。外国のストーリーをやったり、白鳥の湖だって「ジークフリート王子」をやっているんだから。
    その精神性に負けないように、自分達を高めていかないと、世界のバレエから置いていかれちゃうね。
  • 日本ですと、バレエが国からの支援も少なく、活躍する場が海外と比べると狭いような気がしますが。
  • だから海外に逃げてしまう。
    でも逃げずに、それでもやりたい人がやって頑張ってるんだから、日本の人たちが。
    そうやって頑張っていれば、それをもっと支援してくださる人が増えるでしょう。
    だからとにかくやり続けないと。なにも支援してくれないからやらない、じゃそこで終わっちゃうんだから。
    支援してくれないんだけれど、頑張る。という事からスタートするんだから。

    そしてやっぱり、良い物を観た人はもう1回良い物を観たいんですよ。
    レベルを落とした物を観た人は、もう観たくないと思うんですよ。
    高めよう、高めようという、その舞台の中から感じるものがあった時に、お客さんはもう1回観たいと思うのだと思います。

    私達が5年前、東北の地震があった時に、被災地をずっと慰問公演したんです。仮設舞台を持って行って、23日間で27回公演を野外に舞台を作って。
    その時、被災地の人たちが「今日は一流の人が来ますか?」と言うんですよ。
    一流じゃないと人は感動しない。一流の物を観て、素晴らしい物を観た時、人は感動する。
    だから一流は、社会に貢献出来るんだと私は思うんですよ。
    だからバレエダンサーは一流を目指さないといけない。

    それで、踊る方も被災地に行って、うちのダンサーたちも、
    「今まで自分の為に踊っていた」と。
    自分が喝采を浴びたり賞賛を浴びたりするために踊っていたけども、
    「人の為に踊る事に始めて気がつきました」と。
    要するに、被災して何もなくなった方達。おばあさんだとか、こうやって座って観てくれていると、その人達の為になにか踊ってあげたいとか、表現したいという事を、始めて感じたと言っていました。それって大事な事じゃないですか。

    そこから芸術という物が生まれて来るんですよ、やっぱりいろんな人生経験から。
    テクニックではないそういう部分と、いっぱい出会ってもらうと、素敵なダンサーがうまれると思うんだけどね。

    だからそういう経験を皆さんいっぱいしてほしいなと、思います。

    とにかく、続けて続けていってほしい。
  • 最後になりますが、バレリーナを目指す子供達に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
  • とにかくさっきからずっと言っている事だけど、続ける事ですね。
    諦めずに、チャレンジしないと、結果は出ないです。
    それでやっぱり、バレエに向かないとか、他の道がもっと良いというのは自然に自分で気がつく時が来ますから。
    厳しい事を言うようだけど「やりたい」のと「やれる」のは違う、最終的には「やれる」人しか残らないんだから、この世界。
    みんながみんな、小さい頃からバレエをやっていればバレリーナになれるとは限らない。
    厳しい世界で、いろんな苦しい事があるかもしれないけど、その先にもっと素敵な事が待っていると思うからやったほうが良いですよ。継続してください。

今村 博明 先生

井形久仁子バレエ研究所にてバレエを始める。1969年江川明に師事。74年バレエ協会公演『コッペリア』で主役デビュー。76年より2年間文化庁派遣芸術家在外研修員としてロイヤルバレエスクール留学。帰国後、牧阿佐美バレエ団入団、以来同バレエ団の男性第一舞踊手として内外で活躍する。数多くの作品に主演し、日本を代表するプリンシパルダンサーとしての地位を築いた。89年バレエシャンブルウエストを設立。古典バレエの復活上演、新作バレエの制作と意欲的な公演活動を展開している。橘秋子優秀賞、橘秋子特別賞、芸術祭大賞など多数受賞。

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